#25 チームのウォーミングアップに必ず「フリーアップ」の時間を3分間入れる理由。

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チームの練習が始まる前に、全体でウォーミングアップを行うチームは多いと思います。

 

典型的な日本のサッカーチームのウォーミングアップは、チーム全員でグランドを数周走ってから、ストレッチを行う、あるいはブラジル体操を行う、といった感じだと思われます(それ自体の良し悪しは今回は触れません)。

 

チームによっては、鳥かごやロンドと呼ばれるボール回しや、パス&コントロールのドリルなどウォーミングアップからボールを使う、という場合もあるかと思います。

 

僕がチームのウォーミングアップを担当させてもらうようになって今シーズンで3シーズン目です。

1シーズン目とは所属チームは変わりましたが、両チームとも監督の理解に恵まれ、毎練習の冒頭10分前後を担当しています。

 

たかが10分といえど、週に4回練習するとしたら週40分、月換算すれば160分ほどの時間になるわけで、ただ儀式的なウォーミングアップをするにはもったいない時間です。

 

ウォーミングアップの目的は複数あげられますが、最も大切なのは、その後のトレーニングでより効果的な練習が心身の状態をつくることだと考えています。

 

だからといって、準備という視点だけに目を向けていてはやはりもったいないと考えているので、日によってはダンベルやケトルベルを使ったり、鉄棒を使ったり、強度の高いプライオメトリクスや方向転換系のプログロムを行ったりなど、トレーニングとしての側面も混ぜていることが多いです。

 

そんなチームのウォーミングアップですが、 全体でまとまってエクササイズを行う前に必ず「フリーアップ」の時間を入れています。

 

 

フリーアップの時間

フリーアップは3分前後の時間で行います。

その3分間は、選手各々が自由にウォーミングアップを行います。

 

ボールの使用は禁じているわけではないですが、基本的に全員が軽いジョギングをしながら何らかのエクササイズを行っているという感じです。

 

フットワークや減速・加速の確認をしている選手もいます。

 

フリーの時間をとっているというと

「練習前に各自時間があるんだから、わざわざ練習が始まってからそんな時間をとる必要はないんじゃないの?」

と考える人もいるでしょう。

 

そもそも最初にフリーの時間をとっていたのは、僕の先輩のトレーナーの方で、引き継いだ時点でその流れのまま行っていただけでした。

 

しかしそれから2年以上たっても、チームが変わっても続けているのは、この3分に以下のようなねらいを込めているからです。

 

  • 選手が自分の身体の異常に気付く
  • トレーナーが選手の異常に気付く
  • 全体のウォーミングアップでは行わない部分を個人で補完する
  • 自主的にウォーミングアップを行えるように
  • 準備に対する姿勢や考え方を見ることができる

 

選手が自分の身体の異常に気付くこと

これは経験がある人もいるかもしれませんが、練習が始まる前は何ともなかったのに、いざ始まった途端、「なんか変だぞ」と感じることがあります。

 

実際、

「練習始まる前は何ともなかったんですけど~」

「やれると思ったけど動いてみたら~」

といわれることはたまにあり、それにできるだけ早く気付くために、という意図があります。

 

もちろん、練習開始の前に個人個人でアップをすることは前提条件として伝えているので、その時点で気付くことが理想ですが、実際そこでは気付かなかった違和感に練習開始とともに気付くということもありますね。

 

スタッフが選手の異常に気付くこと

毎練習でフリーの時間をとっていれば、やることはルーティーン化されていることが多く、されていなかったとしても、その選手らしさが出るものです。

 

そんな中で明らかにおかしい動きをしていたり、いつもと様子が違ったり、表情が暗かったり、身体を気にするような素振りをしていれば、パッと目につきます。

 

そういう部分にこの時点で気付くことができれば、何らかの対応をすることや、早期にコミュニケーションをとることができます。

 

自分からは言ってこないけれど、おかしいと思って声をかけてみたら「実は~」となるケースも多々あるので、これは重視してる点です。

 

練習前に気付けるのが理想なんですけどね。

 

全体のウォーミングアップでは行わない部分を個人で補完する 

このフリーアップの後に、全体で5~12分間でエクササイズを行います。

 

エクササイズ自体は特別なことをしているわけではありません。

限られた貴重な時間で、かつ大人数で行うため、全体の最大公約数をとるイメージでエクササイズを選択しています。

 

そのため、個人個人で本当は必要なことが、全体のアップでは行えていないかもしれません。

そこを最初の3分間で補完してもらいたい、というのがねらいの一つになっています。

 

正直言えば、フリーアップの時間で個人で必要なことを行い、全体のエクササイズで残りを補完する、という形、あるいはフリーアップだけですべてを補うという形が理想です。

 

しかし、30人弱の人数がいる中で、すべての選手がそうできるわけではないことや、後述する全体のエクササイズの目的の観点から、現状はこのような形で行っています。

 

自主的にウォーミングアップを行えるように

指示されたものをやるだけというのは避けたいと考えています。

 

3分という時間は短いようで長く、3分あれば2〜4種のエクササイズを十分に行えますし、ただジョギングをしていても、400m〜600mは走れます。

 

だいたいこんな感じの動きをすれば自分の身体の調子がわかる、こうやればここまでの状態に持っていけるというのを3分という限られた時間で見つけてくれればいいなと思っています。

 

それが、試合の日の自分のコンディションの指標になったり(試合のアップでも同じようにフリーアップを行う)、自分に必要なものを選択する指標になったりすれば、と考えています。

 

準備に対する姿勢や考え方がみられる

これは、なんだかんだで僕が一番見ている部分ともいえるのですが、先ほど書いたように、自由な時間を提供すると個々人の個性が強く出ます。

 

毎日見ていればそこからなんらかの意図を感じることができますし、ウォーミングアップに対する姿勢も感じ取ることができます。

 

ルーティーンを行う選手、全体のエクササイズでこれまで行ってきたなかで気に入ったエクササイズを継続している選手、こだわりが見える選手、逆に何も考えてなさそうな選手 etc...

 

これまでは何も考えてなさそうだった選手が、だんだんと変わっていく様子も確認できます。

逆もしかりですね。

あれ、最近サボりがちだな、みたいな。

 

ウォーミングアップをしっかりやっているからいい選手、というわけではないですが、チームの中で能力の高い選手ほどアップの中にも何らかのこだわりが表れているように感じます。

 

全体でのエクササイズの時間

フリーアップの後には全体で数種類のエクササイズを行います。

 

理想はフリーアップだけで各自ウォーミングアップが完了する、という形ですが、

 

  • 傷害予防
  • 最低限やっておいてほしいことを全体で行う
  • エクササイズ紹介
  • トレーニングとしての側面

 

という意図で5〜6分ほど、週の1番初めの練習では10〜12分ほど行っています。

 

ここはウォーミングアップをコントロールする人のこだわりが現れる部分だと思いますが、最初に書いたように、たかが数分といえど積み重なればそれなりの時間になることを忘れないようにしています。

 

ダンベルやケトルベルを使うこともありますし、鉄棒を利用することもあります。

エキセントリックの筋発揮もほぼ毎回行います。

 

強度の高いプライオメトリクスも入れますが、アップで怪我をするという最悪の事態は起こさないように、考えながらです。

 

ただなんとなく良さそうだから、という理由ではエクササイズを選択しないように、ただ目的をずらさない範囲で出来る限り多様なエクササイズを行ってもらう(日ごと、週ごと、月ごとなど少しずつエクササイズを変えていく)ように、というのは気をつけている部分です。

 

まとめ

自由な時間を急に与えられると困惑する人もいるようで、チームが変わったときに最初に行った時には、戸惑っているような選手や何をすればわからず、ただハムストリングのストレッチをしているだけの選手もいました。

 

1年経った今では全員とは言えないもののほとんどの選手がそれぞれ何かしら考えているように見られます。

 

3分という時間ですが、時間は2分だったり5分だったりすることもあるわけですが、実施していく中でちょうどいいと感じているのが3分だ、という理由で3分にしています。

 

3分あると意外と多くのことが出来るものです。

 

もしも「うちはアップでこんなことやってるよ」という人やチームががいたらぜひ教えていただきたいなと思っています。

#24 サッカー選手のアジリティで「重心移動ができていない」状態を理解するために考えることとは?

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久々のアジリティに関してです。

 

ここまで2回に分けて、アジリティと方向転換について基本的なことを書いてきました。

こちらこちらからどうぞ!

 

1回目は、

  • アジリティの構成要素のモデル
  • 地面反力と重力を利用して移動することの基礎

という点から。

 

2回目は

  • 地面反力と重力を利用してパフォーマンスを高めるには?

 という点から書きました。

 

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#23 ハムストリングのトレーニングを股関節伸展で考えるか膝関節屈曲で考えるか②

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【昔のブログのリライト記事です】

 

今回は、前回に引き続きハムストリングに関してです。

 

傷害予防として筋肉に伸張性の負荷がかかるエクササイズを行うことはよく見られますが、では例えばノルディックハムストリングと、ルーマニアンデッドリフトではどう違うの?という疑問の1つの側面に触れていきます。

 

まだ読んでない方は前回記事からお読みください。

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#22 ハムストリングのトレーニングを股関節伸展で考えるか膝関節屈曲で考えるか①

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アスリートはパフォーマンス向上、競技での勝利のために日々鍛錬を続けています。

継続は力なりとは言いますが、スポーツにおいても、質の高いトレーニングを行うだけでなく、それを継続して行くことが能力向上において欠かせない要素です。

 

その「競技を継続する」ということの障害になるのが怪我、つまり「傷害」です。

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#21 一度脚を後ろに引いてから加速する場合にスムーズに動き出すためのポイントは?

 

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今回は球技スポーツにおける、スタート動作と加速局面に関して、特に初めの1,2歩目に関して書いていきます。

 

今回はいつもよりも多く(いつもも多いですが)私見ががんがん入ってますが、そう思って読んでください。

 

【過去ブログで2017年5月9日に書いた記事をリライトしました。】

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#20 アジリティ・方向転換のパフォーマンス向上のためには?

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前回は、アジリティに関して、方向転換のスピードの要素の1つである「テクニック」から話をしていきました。

 

アジリティのモデルではテクニックとして

 

  • 足の接地位置
  • ストライドの調整
  • 身体の傾きと姿勢

 

があげられています。

しかし、それだけ言われても、じゃあ実際どうしたらいいの?がわかりませんよね。

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#19 サッカーとアジリティ:「地面反力」と「重力」の活用を考える

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 アジリティという言葉は様々な場所で聞かれますが、そのアジリティを向上させるための明確なトレーニングプロトコルはいまだ示されていません。

 

それは、アジリティに関わる要素が多いからで、その人それぞれの課題によってトレーニングのポイントが大きく変わってくるためだと思われます。

 

そんな中で今回は

 

  • 地面反力
  • 重力

 

の2つに着目して方向転換とアジリティに関して考えていきたいと思います。

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#18 減速のスキル② 「重力」を効果的に活用すればもっと楽に減速できる。

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前回投稿で、人が動くには

  • 重力
  • 地面半力

の2つが主に働くと書きました。

 

そして減速時における地面反力の活用に関して簡単にですが書きました。

 

今回はもう1つの力の重力に関してです。

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#17 減速のスキル① 「地面反力」を効果的に活用するためには?

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人が動くために働く力の主なものとして

  • 重力
  • 地面反力

の二つがあげられます。

 

前方への移動を考えると、

  • 重力によって前方に倒れようとする力
  • 地面に対して力を加える(筋による出力)ことでうける地面反力

によって前方へ歩いたり、走ったりできるというわけです。

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#16 例えば、走るときに腕を後ろに振るのか?前に振るのか?という話で。

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先日ある勉強会に参加した時の話です。

 

実技も含まれており、行ったのはベーシックなエクササイズでしたが、新たな発見や理解があり行ってよかったと感じています。

 

そのセミナーで、

「走るときに腕は前に振るか?後ろに振るか?」

といった話があがりました。

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#15 運動時に自分の身体に意識をむけるか、それとも外側に向けるか -内的焦点と外的焦点-

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人の運動には何かしらの目的が伴うもので、目の前にある食べ物を手に取りたいから手を伸ばし、100m離れたあの人のもとに行きたいから走りだします。

 

この時、自分の意識は自分の身体には向いておらず、目の前の食べ物や、遠くにいるあの人に意識が向いています。

 

対して、ウェイトトレーニングでは大殿筋に意識を集中させますし、新しい動作を習得したいときにはこんな感じかな?と自分の身体感覚と向き合うことになります。

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#14 怪我をした後は「適切な負荷」をかける。早期からの”Optimal Loading” -POLICE-

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怪我をしてしまったら、まずは応急処置が必要となります。

これまで、受傷後の対応としてRICEやPRICEがメジャーな方法として用いられてきました。

RICE、またはPRICEは

  • P:Protection(保護)
  • R:Rest(安静)
  • I:Icing(冷却)
  • C:Compression(圧迫)
  • E:Elevation(挙上)

の頭文字をとった言葉で、受傷直後にはこれらの処置を行いましょう、とされています。

僕が大学で教わったのもこのRICEあるいはPRICEです。

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#13 日本トレーニング科学会大会で感じたトレーニング指導に必要な能力。

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先日、日体大世田谷キャンパスで行われた日本トレーニング科学会大会に行ってきました。

友人に誘ってもらったのがきっかけです。

 

大学の卒業論文のポスター発表で、日本コーチング学会には参加したことがあったのですが、個人的に学会に行くのは初めてでしたし、大学の頃とは違い、スポーツ・トレーニングといったところから少し離れてしまった(現場での活動があるので離れてはいませんが)と感じていたので、タイミング的にはとてもよかったです。

 

1日目は参加できなかったので、2日目だけの参加でした。

シンポジウム、ランチョンセミナー(筑波大の征矢先生が講演していてなんだか懐かしい気持ちになりました笑)、ポスター発表が行われたわけですが、今回は主にシンポジウムに関して、それと全体を通しての個人的な感想を書いていきます。

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#12 広背筋を働かせたい背中のエクササイズは、肩甲骨に注目することも大切だけれどそれだけでなく。

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ラットプルダウンや懸垂、マシンやダンベル、バーベルを使ったローイング系エクササイズは、背部の筋、主に背部の筋力向上を目的に行われます。

 

背部には多くの筋がありますが、この場合、使いたい、負荷をかけたい筋は広背筋です。

しかし、その広背筋の働きを知らないことで、肩甲骨を動かすことや、脇の下あたりの筋を使ってる感覚でエクササイズに取り組んでいる選手も少なくありません。 

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