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アジリティという言葉は様々な場所で聞かれますが、そのアジリティを向上させるための明確なトレーニングプロトコルはいまだ示されていません。
それは、アジリティに関わる要素が多いからで、その人それぞれの課題によってトレーニングのポイントが大きく変わってくるためだと思われます。
そんな中で今回は
- 地面反力
- 重力
の2つに着目して方向転換とアジリティに関して考えていきたいと思います。
アジリティ
アジリティに関して先日以下のようなtweetをしました。
アジリティもこんな感じのモデルが示されてて、単純に方向転換が速いのと、アジリティが優れてるのはイコールじゃない。
— 松本圭介 (@DoKei56) 2018年2月22日
筋力的な課題なのか技術的な課題なのか意思決定が課題なのかも人によって変わってくる。
どうやって向上させようかってって時に、こういうのがが役立つよね、と。 pic.twitter.com/r09RnZVote
図で示しているように、アジリティは
- 知覚・意思決定
- 方向転換
の2つの要素からなっています。
こうなると、人によっては、筋力的な課題がアジリティの向上を阻害してるかもしれませんし、また別の人はテクニックが不十分かもしれない、そしてこっちの人は意思決定の能力に問題があるのかも。。。
と課題は個々人で変わってくるのです。
今回触れるのは、「テクニック」の部分です。
このモデルでは、
- 足の接地位置
- ストライドの調整
- 身体の傾きと姿勢
の3つがあげられていますが、ここに着手するために先述した
- 地面反力
- 重力
が重要となってきます。
移動の基本 「地面反力と重力」
このテーマに関しては前回、前々回にも触れました
こちらとこちらの記事で触れているように、人が移動する際には、
- 地面反力
- 重力
の2つの力が主として働きます。
(他にも、先述した空気抵抗や、風、また慣性の法則やモーメントなども関連してきますが、ここでは上記2つだけを取り上げていきたいと思います。)
地面反力
地面反力は、
「地面に対して力を加えた結果、作用反作用の法則によってかえってくる力」
といえます。
この時地面に対して加える力は、自らの筋が収縮する力、つまり筋力によって生み出されています。
まず、ジャンプする時を考えてみましょう。
真上に跳ぶためには、真上に跳ぶだけの力を地面反力として受けなければなりません。
そのためには、真下に力を伝える必要があります。
結果として、垂直方向へ大きな速度が獲得でき、跳び上がることができます
これは、前後左右への移動(水平方向への移動)も同様で、地面反力を進みたい方向へ傾けることで、水平方向への移動が可能となります。
逆に言うと、地面反力を効果的な方向へ向けることができないと効率よく移動することができない、ということです。
重力
重力は、地球上にいる限り、常に地球の中心方向へ向かって働き続けます。
先程、真上に跳ぶためには、地面反力をその方向へ向けるように地面へ力を伝えることが必要、と書きました。
跳びあがった後は、地面反力による垂直方向への力は途切れてしまいますが、重力が存在するために、身体に対して下方向への加速度が働き続けます。
結果的に徐々に速度が小さくなり、やがて0に、そして落下〜着地という経緯をたどることになります。
水平方向への移動と支持基底面・重力
次に水平方向への移動(前後左右への移動)を考えてみます。
水平方向の移動では、重力を
「移動方向へ倒れる力」
として利用することができます。
物体が安定してその場にとどまり続けるためには、支持基底面上に重心があることが必要です。
支持基底面から重心が外れると、安定性が崩れ物体はその方向へ倒れて、あるいは転がってしまいまうためです。
逆にいうと、支持基底面から重心が外れると、その方向へ移動できるということです。
移動の際に重力を活用するというのは、「重心移動」と表現されることが多いです。
前回記事では、減速時に重力を骨要することに関して書きましたが、それは加速時や方向転換時にも同様で、それがうまくできるかどうかが効率の良い動作のポイントだったりします。
両立する2つの力
上記の2つの力(地面反力と重力)を利用することで、前方へ走ったり、方向転換したりすることができます。
よく
「地面を蹴って進むのはよくない」
「踏ん張ってはいけない」
「重心移動が大切だ」
と言われます。
そんなことを言われても多くの人は感覚的に「へーそんなんだあ」と何となくわかったつもりにはなるかもしっれませんが、実際にそれはどういうことなのか、なんで踏ん張ってはいけないのか、重心移動って何なのか、というところはわからないままです。
しかし、地面反力と重力が身体に作用しているということ、そしてそれを効率よく利用するにはどうしたらよいか、がわかれば上記の言葉の意味も理解できてくるかもしれません。
そして、ここで言いたいのは、
「地面を蹴ること(地面反力)」と「重心をうまく使うこと(重力)」は両立するものということです。
続きは次回へ持ち越します。
次回は
「地面反力と重力を効率よく活用してアジリティパフォーマンスを向上させる」
をテーマにしていきます。
参考
- Young. W. B., R. James, and I. Montgomery. (2002) Is muscle power related to running speed with change of direction?Journal of sports med. Fitness., 42: 282-288.