アスリートはパフォーマンス向上、競技での勝利のために日々鍛錬を続けています。
継続は力なりとは言いますが、スポーツにおいても、質の高いトレーニングを行うだけでなく、それを継続して行くことが能力向上において欠かせない要素です。
その「競技を継続する」ということの障害になるのが怪我、つまり「傷害」です。
そしてその傷害の中で発生率が高いものの一つが筋損傷、通称「肉離れ」です。
特にハムストリングの肉離れはスポーツ選手にとって好発する傷害で、この傷害を予防することは重要事項といえます。
また、ハムストリングはスプリントを始め、様々な運動で動員される筋であり、傷害予防という視点だけでなく、パフォーマンス向上という視点からも、トレーニングしていくことが求められます。
ということで2回に分けてハムストリングについて書いていきます。
【昔のブログで2017年2月3日に作成したものをリライトしたものです。】
ハムストリングの肉離れ
肉離れの原因
以下のレビュー論文で、ハムストリングの肉離れに関して、原因となりうる因子を6つ挙げています。
(1,Hamstring strain injuries: are we heading in the right direction?)
- 既往歴
- 柔軟性
- 筋力
- コアスタビリティ(体幹部の安定性)
- 疲労
- 形態
(個々の要因に対しての詳細はリンク先論文で↑)
6つ挙げてはいるものの、例えば柔軟性や筋力は肉離れと関係があるとする報告と、関係がないとする報告があり、一貫した結論はでていないようです。
おそらく被験者の条件(アスリートか非アスリートか、競技レベル、他要因との関係性など)や実験設定によって結果が変わるからでしょう。
また、これら以外にも報告されているハムストリングの肉離れの原因としては、
- アップ不足
- 体幹部の前傾角度
- 神経系の問題
- スプリント時の接地タイミングのズレ
- 大臀筋の筋力不足
- 水分不足や栄養面の課題 etc...
など様々な要因が考えられています。
受傷のタイミング
ハムストリング肉離れは、ハムストリングがエキセントリック収縮(遠心性収縮)を行う際に発生するとされています(筋が伸ばされながら収縮しようとしている状態)。
受傷起点として多いのは、スプリントやランニング時です。
人が走るとき、脚の位置によっていくつかの局面に分けられますが、その中でも肉離れは、ハムストリングが最も伸張される遊脚期後半、最も負荷が大きくなる接地直後、さらに接地期後半に発生することが多いとされています。
こういうとき↓(遊脚期後半)
こういうとき↓(接地時)
さらに接地からこの局面にかけて(接地期後半)
また、サッカーで起こり得るシチュエーションとしては、ボールを触るために脚を大きく伸ばしたときにも発生することがあります。
この場合は、筋が過剰に伸長されることで、筋損傷が起きてしまいます。
ハムストリングをどう強化するか?
ここからが本題です。
肉離れの発生因子として、様々な要因があるとはいえ、パフォーマンス向上のためにもハムストリングを強化していくことは必要でしょう。
柔軟性向上
ハムストリングの柔軟性不足は、肉離れの因子になる可能性があるだけでなく(関係性がないという報告はあるものの)、パフォーマンスにも影響を与えます。
また、直接的に競技に影響を与えなかったとしても、競技に必要なトレーニングが効果的に行えない、といったことも起こりえます’。
柔軟性があればいい、というわけではありませんが、一定のレベルは要求されるでしょう。
柔軟性向上の方法としてはストレッチが代表的なものとして挙げられます。
静的ストレッチだけでなく動的ストレッチや、PNF(上記リンク先参照)を利用して行くことでより効果的に向上させていくことができます。
また以下で紹介するルーマニアンデッドリフトも効果的です。
筋力向上
筋力向上の手段として、様々なトレーニングエクササイズが行われています。
例えばレッグカールや
ルーマニアンデッドリフト(筋力向上と主に柔軟性獲得にも効果的なトレーニングです)
ハムストリングの肉離れ予防に効果的と報告されている、ノルディックハムストリング(ロシアンハムストリング)などです。
それぞれのエクササイズは、ハムストリング強化という共通の目的を持ちながら、ハムストリングが二関節筋であるがゆえに、
膝関節の屈曲をメインとするか、股関節の屈曲をメインとするか
という違いが生まれています(もちろんそれだけではないですが)。
次回へ
少し量が多くなってしまいそうなので次回へつなげます。
今回はハムストリングと、肉離れについて基本的なことに触れただけでしたが、②では、ハムストリングの作用である膝関節屈曲と股関節伸展で、ハムの働きがどう違うのか、そしてそれによってトレーニングの効果がどう変わるのかについて書いていきます。
参考
Hamstring strain injuries: are we heading in the right direction?