前回は、アジリティに関して、方向転換のスピードの要素の1つである「テクニック」から話をしていきました。
アジリティのモデルではテクニックとして
- 足の接地位置
- ストライドの調整
- 身体の傾きと姿勢
があげられています。
しかし、それだけ言われても、じゃあ実際どうしたらいいの?がわかりませんよね。
そこで話を広げる導入として、
- 地面反力
- 重力
に触れました。
今回はその続きです。
方向転換・アジリティの高いパフォーマンスのポイントはどのあたりにあるか考えてみましょう。
方向転換のための地面反力・重力
効率の良い方向転換を実行するために、地面反力と重力という視点から見ていくと、前回も簡単に述べましたが、
- 地面反力を水平方向へ近づけること(次の進行方向へ向けること)
- 重心を支持基底面から大きく外すこと
が必要なのではないか、という仮説が生まれてきます。
これによって、地面反力と重力の両方を効率よく利用できるためです。
地面反力に関して、バスケ選手を対象とした、サイドステップを用いた方向転換のテストにおいて、方向転換能力の優れた対象者は、
地面反力をより水平方向へ向けることができていた
という報告があります(1)。
これは、あくまでサイドステップでの話ではありますが、方向転換において地面反力を水平方向へ向けることが重要であることが示唆されます。
また、重心に関して、180°の方向転換走テストにおいて、方向転換能力に優れたものほど
身体が進行方向へ傾いていた
ことが報告されています(2)
身体の傾きを目的の方向へ向けることで、重心位置を進行方向側へ移動させることができます。
以上の点から、
地面反力、重心をコントロールすることは方向転換のハイパフォーマンスに貢献するだろうと考えられるのではないでしょうか。
それ踏まえ、以下に続きます。
地面反力と重心のコントロール
では、上記を踏まえたうえで、どうやって地面反力と重心をコントロールするか考えてみましょう
方向転換テストから
まず1つの例として、方向転換走のテストであるPro-agility test(ここではShuttle Drill)を見てみましょう(動画22秒~の2人がわかりやすいかと思います)。
NFL 101: Shuttle Drill | NFL Combine
(こちらの動画はアプリからは見られないみたいです。Safariなどからどうぞ。)
方向転換の局面を見てみると、
- 足を自分の身体に対して相対的に遠い位置に接地している
- 方向転換のタイミングには、方向転換側(次の進行方向)へ重心を支持基底面から外している
と、先ほど記述した点との類似点を認めることができます。
(2つ目であえて身体の傾きという言葉を使わなかったのですがそれは後述します)
試合中のアジリティから
先ほどの動画は方向転換のテストでの様子ですが、今度は実際の試合中での動きを見てみましょう。
この場合、当然ながら知覚・意思決定の要素が入ってくるので、アジリティということになります
ラグビー、アメフト、バスケ
まずはラグビーから。
Best Rugby Steps 2016 ᴴᴰ Part 1
(キレがえぐい。。。)
次にアメフトです。
(こちらの動画もアプリからは見られないみたいです。Safariなどからどうぞ。)
方向転換側とは逆側の脚(以下:外脚)をついてから素早く方向転するステップ①(カッティング)と、
身体を正面に向けたままカッティングから素早くクロスステップを行うステップ②の2種が多くみられます。
①と②の違いはサッカーでも見られますが、その辺はまた後で書いていこと思います。
またバスケでみられるこの動きは、ラグビー、アメフトでも見られるものですが、サッカーではほぼ見られない、という点で面白いなと思ってます。
こちらに書いた、②の動きですね。
OH MY GOODNESS. 👀#BEARDING pic.twitter.com/wNVNCNFUPo
— Houston Rockets (@HoustonRockets) 2018年3月1日
ここまでのシーンからも、
- 外脚を相対的に身体から離れた位置に接地すること。
- 重心を方向転換側へ支持基底面から外すこと
が重要であることがみて取れます。
サッカーのドリブル
そしてサッカーです。
まずドリブルから。
Top 10 Dribblers in Football 2015/2016
サッカーのドリブルでもカッティング(先述した①のステップ)が多く見られます。
カッティングからのクロスステップ(先述した②のステップ)は、あまり見られないようにも思われますがドリブルの得意な選手は動画の15秒からのシーンや、下のようなステップを踏むのが見られます。
このアウト→インのステップ https://t.co/WQUTGrzFcf
— 松本圭介 (@DoKei56) 2017年11月24日
リンク先11秒のシーン
サッカーのドリブルの場合、足でボールをコントロールすることの比重が非常に高くなるためか、他の競技(ラグビー、アメフトなど)に比べて、足の接地位置が身体に近いようにも見えます。
サッカーの守備時の動き
次にディフェンス時です。
どちらかというとサッカーではこっちのほうが重要度が高いと個人的には思っています。
長友佑都プレー集 2015/2016 【ディフェンス編】 インテル Yuto Nagatomo Defensive Skills
長友選手のプレーです。
見てもらいたいのは、1分6秒からのサイドでの1対1のシーンで、まず縦方向への方向転換ののち、さらに2回180°の方向転換をするのですが、この場面でも地面反力、重心位置の視点で見てみると面白いです。
今回は攻撃時のオフ・ザ・ボールの動きには触れませんが、その時も、基本的には変わりません。
ハイパフォーマンスのための戦略
足の接地位置
こう見ていくと、競技が違いにより細部のスキルは異なるものの、方向転換の高いパフォーマンスのための戦略として
- 足を相対的に遠くに接地すること
が考えられます。
これは、地面反力を水平方向へ向けるためにも、重心を支持基底面から外すためにも有効であると考えられます。
身体の傾き
また、身体を方向転換の方向へ傾ける、という戦略も考えられます。
しかし、これは方向転換では有効であるものの、知覚・意思決定が要求されるアジリティでは、身体を傾けることが難しい場合も多々あります。
あらかじめ決まった方向へ移動するのと異なり、瞬時に判断した結果の動きであるため目的の方向へ傾けるだけの時間はなく、結果として方向転換に比較しアジリティでは身体の傾きは小さくなると考えられます。
よって、身体の傾きという視点よりだけでなく、重心位置と支持基底面との距離という視点のほうが考えやすい場合もあると考え、必ずしも身体の傾きという表現である必要はないかなと個人的に考えています。
接地時間
そしてもう1つ、接地時間が短いこと、つまり方向転換から次の足を接地するまでの時間が短いことが考えられます。
実際、方向転換の能力が高い選手は、方向転換時の足の接地時間が短いとの報告があります(1、3)
また、180°の方向転換を行う方向転換テストで、方向転換の能力の高いものは方向転換の最後の足での接地時間が短いことに加え、鉛直方向の地面反力が小さいことも報告されています(3)。
この辺りは、次の足をより早く設置して方向転換からスムーズに加速することに貢献する点だと考えています。
ここについては次回以降掘り下げていきたいと思います。
まとめ
ここまでをまとめてみます。
しかし、足を遠くにつくといっても、遠すぎれば今度は地面に発揮する力自体が小さくなってしまう可能性がありますし、滑って転ぶリスクも高まります。
「過ぎたるは~」というやつです。
(ちなみに、方向転換のパフォーマンスに共通する点として「重心が低いこと」の報告もありますが、上記を満たせば必然的に重心位置が下がることを踏まえると、サッカーの方向転換では優先度はそれほど高くないのでは?と考えています。どちらかといえば「勝手にそうなる」という感じで考えています。)
と、ここまでで、方向転換・アジリティの高いパフォーマンスを実現するためのポイントを考えてきました。
次回からは、これを踏まえたうえでアジリティの応用編として、
「踏ん張ってはいけない、重心移動が大切、ってぐたいてきにどういうことなの?」
「アジリティ・方向転換において、内側・外側の脚でそれぞれ役割が異なること」
などを書いていきたいと思います。
むしろこれからが本当にまとめておきたいことだったりするのでもう少しお付き合いください。
参考