#38 フルスクワットvsクォータースクワット。フルスクワットが良いとは限らない?

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スクワットは、下半身の筋力を効果的に鍛えることができるため、競技パフォーマンスアップを目的にする人からボディメイクを目的とする人まで様々な人が行っています。

 

このスクワット、実は本格的に行おうとすると非常に難しいトレーニングで、正しい動きで行おうとすればするほど様々な点にこだわる必要が出てきます。

非常に奥が深いトレーニングです。

 

さて、今回はそんなスクワットの「深さ」に関して書いていこうと思います。

 

*この記事は、過去ブログで2016年10月に書いたものをリライトした記事です。

 

 

スクワットの深さ

スクワットを行う際にたびたび話題になることに、

「どこまで深く下げていくか。」

があります。

 

ウェイトトレーニングとしてスクワットが行われる場合には、多くの場合は、大腿部が地面と平行・もしくはそれより下がる角度まで下げていくフルスクワットが推奨されています。

 

フルスクワットが推奨される理由としては

  • より効率よく、効果的に多くの筋をトレーニングできる。
  • 大きな可動域で行うことでより大きな角度での筋発揮能力が高められる。
  • 各関節・筋の柔軟性・可動性の向上が望める。
  • 自分の筋力に適さないほど過剰に重い重量を持つことはできないため、角度の浅いスクワットに比べ安全である。 etc...

などなどです。

 

「クォータースクワットやハーフスクワットのほうが実際の競技動作に近いから、そのほうがパフォーマンスアップには効果的でしょう?(フルスクワットほどしゃがむことは競技中にないから)」

という意見もありますが、競技動作と似ているからといってそれが効果的なトレーニングとは限りません。

(競技動作とウェイトトレーニングでは、動きの見た目が同じでも使われる筋肉、タイミング、力の方向、運動感覚などの違いがあるため。)

 

実際にこれまでに、

フルスクワットとクォータースクワットを一定期間トレーニングした後に垂直跳びの測定を行ったら、フルスクワットのほうがより効果的だったという研究(Hartmann et al. 2012もされています↓

Influence of Squatting Depth on Jumping Performance

 

しかし、これら研究での対象者は、多くはウェイトトレーニングの経験が少なく、アスリートとしてパフォーマンスレベルの高くない人、もしくは一般の人たちでした。

そのため、この結果がそのまま日常的に高レベルのトレーニングを行っているアスリートに当てはまるのか?というところには疑問が残ります。

 

クォータースクワットのほうが効果的?

場合によって、クウォータースクワットやハーフスクワットが、フルスクワットよりも効果的なトレーニングになり得る、可能性があります。

 

Joint-Angle Specific Strength Adaptations Influence Improvements in Power in Highly Trained Athletes : Human Movement

 

この論文は、フルスクワット(FS)、ハーフスクワット(HS)、クウォータースクワット(QS) の3つの方法で16週間トレーニングを行ったときに、

・3種のスクワットの1RMの重量

・垂直跳び

・40ヤード走の記録

の変化がそれぞれどのように起こるかを比較する、といったものです。

 

要点を簡単にまとめると、

  • 被験者は28人の、十分にトレーニング経験のある男子大学生アスリート。
  • トレーニングとしてFSを行うグループ、HSを行うグループ、QSを行うグループの3つのグループをつくり、それぞれ16週間トレーニングを行った。
  • トレーニングは、上半身のトレーニングが週2日、下半身のトレーニングが週2日行われ、下半身のトレーニングは、スクワット(グループによってFS、HS、QSのいずれか)、パワークリーン、ランジ、レッグカール、ステップアップが行われた。
  • つまりスクワットのトレーニングは計32回。
  • 実験開始の前、中盤(8週目)、32週終了後の3回、各グループはFS、HS、QSの1RMの測定、垂直跳びの測定、40ヤード走の測定を行った。
  • 結果は、FSを行ったグループはFSの1RMが、HSのグループはHSの1RMが、QSはQSがそれぞれ最も向上した
  • 垂直跳び、40ヤード走ともにどの群も向上したが、QS>HS>FSの順に大きく向上した。

といった感じです。(とても簡単にまとめました。)

 

つまり、この研究から

  • 各関節可動域での筋力は、その角度でトレーニングを積むことでより効果的に向上する。
  • スプリントや垂直跳び等のパフォーマンスは、実動作に近い関節角度でスクワットを行うことで、そのパフォーマンスをより向上させることができる。

という可能性が示唆されました。(*スプリント、ジャンプの能力が向上したのは股関節伸展筋に高い刺激を与えられたから?という可能性もあります。)

 

これは、フルスクワット>クウォータースクワットという考えや、競技動作とウェイトトレーニングの動きが似ているかどうかは関係ないという考えとは異なる結果となりました。

 

だからと言ってクウォータースクワットがBESTというわけでもない。

この結果が出たから、

「じゃあ、やっぱりフルスクワットより、競技動作に似ているクウォータースクワットをやったほうがいいんだ!」

となるのは少し違うかなと思います。

 

対象がエリートアスリート

その理由としてまず第一に、この実験での被験者がすでに十分に高い筋力、パフォーマンスレベルを備えていたことがあげられます。

 

被験者は20歳前後の学生アスリートでした。

被験者の前提条件として、最低でも2年間継続してトレーニングを行ってきたことや、パラレルスクワット(大腿部が地面と平行になるくらいまでおろすスクワット)の1RMが最低でも体重の1.5倍であること、などが記されています。

 

さらには、実験前の段階でスクワット1RMの記録、垂直跳びの記録の平均値は、

 

・QS 1RM 約165kg

・HS 1RM 約150kg

・FS 1RM 約127kg

・垂直跳び 約75cm

・40ヤード走 約4.7秒

 

という数値でした。

これは継続的なトレーニングを行っていなければ出せない数値です。

 

そのため、すでに基礎的な能力を高いレベルで有していたからこそ、クウォータースクワットが有効であった可能性があります。

その基礎的な筋力を有していない選手がクウォータースクワットを導入するのは効果的ではないかもしれません。(Hartmann et al. 2012などの結果から考えると。)

 

その関節角度での筋力しか向上しない

この研究結果から、先に書いたように、

角度が大きくとも小さくとも、ある角度での筋発揮のトレーニングを行うことで、よりその角度における筋力を効果的に向上させられる可能性、

そしてそれが同じような関節角度で行われる運動の能力向上につながる可能性、

が示唆されました。

 

そのため、じゃあスプリント能力とジャンプ能力を高めたいからクウォータースクワットをやろう、という考えも間違ってはいないとは思いますが、逆に言うとそれより大きな可動域での力発揮はトレーニングできないということでもあります。

 

その競技でもしも直線のスプリントと垂直跳びの動作しか入らないのであればそれでもいいのかもしれませんが、例えばサッカーであればそれ以外にも、ストップ動作や方向転換動作、キック動作、相手との接触など様々な動きが含まれています。

これらの動きではより大きな関節可動域での力発揮が必要です。

その動作に対応できる能力をトレーニングできないと考えると、その競技のパフォーマンスを高める(スプリントとかジャンプとか限定的な要素だけではなく)と考えた時には、クウォータースクワットだけでは不十分ではないでしょうか。

 

その他

その他にも、柔軟性の向上軟部組織の強化という効果が得られないかもしれないという点や、傷害発生のリスク(クウォータースクワットでは非常に重い重量を持ててしまうため過剰な負荷が身体にかかる)という点なども問題になるのかなと思いました。

 

まとめ

 

今回の記事の内容をまとめると、以下のようになります。

 

  • ある関節角度でのウェイトトレーニングは、その関節角度において特異的な筋力向上を引き起こす可能性がある。
  •  クウォータースクワットは、ハーフスクワットやフルスクワットに比べ、40ヤード走や垂直跳びなどの記録を向上させる効果が高い可能性がある。
  • しかしそれは、基礎的な筋力を十分に備えたアスリートにのみ当てはまるのかもしれない。
  • また、可動域を制限したスクワットでは、その可動域での筋力、運動パフォーマンスの向上は引き起こすかもしれないが、それ以外のパフォーマンスに結びつくかどうかは疑問が残る。

 

基礎的な筋力を有していない選手は、

先に書いたようにフルスクワットなどの大きな関節可動域を必要とするトレーニングを行い、大きな可動域範囲での筋力をトレーニングすることが効果的かもしれません。

 

逆に十分なトレーニングを積んできた選手は、

ただ基本的なトレーニングを行うだけではなく、目的に合わせて段階的にトレーニングを選択することが必要なのかもしれません。

 

今回この結果は、基礎的なトレーニングのさらにその先のトレーニングと考えるのが適していそうです。

トレーニングを考える一つの考えとしてもっていると良いかなと思います。

 

参考論文

1. Hartmann, H., Wirth, K., Klusemann, M., Dalic, J., Matuschek, C., & Schmidtbleicher, D. (2012). Influence of squatting depth on jumping performance. Journal of Strength & Conditioning Research, 26(12), 3243.

 

2. Rhea, M. R., Kenn, J. G., Peterson, M. D., Massey, D., Simão, R., Marin, P. J., & Krein, D. (2016). Joint-Angle Specific Strength Adaptations Influence Improvements in Power in Highly Trained Athletes. Human Movement, 17(1), 43-49.