#63 守備で止まろうとすると止まれない?「減速」と「止まる」の違い

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減速の仕方が重要だという話は以前からブログでも書いていますが、動きとしてその動作を練習しても、「止まれない選手」は多いなと感じています。

あるいは、ドリルの中ではうまくいっても試合の中では「止まれない動き」になってしまうことも多いです。

#17 減速のスキル① 「地面反力」を効果的に活用するためには? - Matsu Sports Training

 

#50 減速はもも前の筋肉ではなく大殿筋やハムストリングが重要? - Matsu Sports Training

そもそも止まれないような動きになっているのは、「動き方」に問題があるのか?と考えると、そうでない場合も多いんじゃないかなと思うことが増えました。

 

なぜなら、周囲の状況との関係性やちょっとした意識の置き所次第で、「動き」はたやすく変わってしまうからです。

 

例えば「動き方」の一例として以下のようなテクニックがありますが、これができたから「止まれる」ようになるとは限りません。

 

 

また、例えば、ドリル形式で減速や方向転換の動きをやってもらうと、極端に動きが悪いと感じる選手は少なく、むしろ動き自体は「止まれない」と思われている選手の方が良いなんてこともあります。

 

そこでもう一度「アジリティ」の要素を考えてみると、方向転換のテクニック、いわゆる「動き方」は一つの要素にすぎないことが改めてわかります。

単純に「方向転換」を考える意してもテクニックだけでなく、筋力的な要因を忘れてはいけません。

 

そして「アジリティ」を考えるならば、「知覚・意思決定」を含まなければならないわけです。

 

アジリティと方向転換に関する有名な話で、「方向転換」能力は競技レベルとの相関が見られないが、「アジリティ」には相関が見られるというものがあります。

これは先行研究でも報告されていることで、実際に昔僕が大学で行なった実験(卒論ですが)同様な結果が見られました。

 

第1弾・アジリティとは単に素早く動く能力ではない? - KEI.'s blog

 

つまり、戦術理解や状況判断といった「知覚・意思決定能力」の有無、あるいは質の違いがアジリティに与える影響は大きいと考えられます。

 

今回は「止まる」ということに関して、こういった視点から考えていきたいと思います。

 

今回は基本的に私見なので参考程度にどうぞ。

 

 

止まろうとすると止まれない?  

例えばこのようにサイドで相手ボールホルダーに向かってアプローチをかける場面で考えてみます。もちろんこれは一例で、これが中央でも構いません。

実際には、前後関係が(この前にパスを受けているはずなので、そのパスと自分の位置との関係など)重要ですが、そこは今回割愛していきます。

 

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このようなシーンだと、赤の相手選手がボールを受ける前にアプローチし、

  1. 可能ならパスをインターセプト
  2. 無理ならコントロールした瞬間を狙う
  3. それが無理なら振り向かせない

などといった優先順位があります。

 

またコントロールされ前を向かれたとしても、相手のプレーに時間的・空間的な制限をかけるために可能な限り接近することや、プレーを遅らせることが求められます。

 

 NAさん(@ttgguu04

 

そのため、一般的に

「素早く寄せろ」

「止まれ、飛び込むな」

「ギリギリまで近づけ」

という指導やコーチングが行われるかと思います。

 

しかし、そのようなコーチングによって

  • 相手と距離を詰め切れない
  • 相手が下がった時にもう一歩前に出られない

という現象が見られることがあります。

 

本当に「止まってしまう」「止まろうとしてしまう」わけです。

あるいは、あとで触れますが、「止まろうとしているのに止まれない」という現象も起きることがあります。

 

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では、そのような場合に、「止まる技術が低い」と考えるのが適切かというと必ずしもそうでないなと感じています。

 

だからといって、「戦術理解が低い」といった表現も少し違う気がします。

考え方の違いが「止まれるか」「止まれないか」の違いになっていることが多い印象です。

 

止まれない人、あるいは止まれないときというのは、意識が「今」ボールのある場所に向いているはずです。

その上で、「止まろうとする」ためあらかじめ止まる場所を設定します。

「それ以上近付くと相手の動きに対応できないと自分が考える場所」が止まる位置です。

 

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いわゆる止まれない人の認識では「止まること」は

「相手がどちらにいっても対応できるようにする」が目的になっている可能性があります。

止まった上で、相手が右へ行けば右へ対応し、左へ行けば左へ対応するといったようにです。

 

しかし、この場合、「今」の連続なため「次」の瞬間には新しい「今」が生まれるため瞬間瞬間で対応を変えなければいけません。

また急激に止まろうとしている時には、別の方向に移動することが非常に困難になります。

 

仮に止まれたとしても、止まった状態からもう一度動くのは一苦労です。

 

そうなると、能動的に動く相手に一手遅れる形になるために「止まれていない」ように見えるのではないでしょうか?

 

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止まろうとしないで「減速する」

対して、止まれる人、止まれるときは、おそらく結果的に止まっているように思われます。

 

上記までと、以下の図での違いは、

「スプリント→相手の前で止まる」という意識と、

「スプリント→減速しながら近づいていく」の違いがあります。

 

減速の度合いを調節した結果、「止まる」こともあるでしょうが、それはあくまで結果的に止まっているわけで、止まろうとして止まっているときとはおそらく大きな差があります。

 

また、止まろうそしていない(止まることが目的でない)ため、そのまま再加速してボールを奪いにチャレンジすることも可能です。

 

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そのような動きは、以下のたむらコーチさん(@tam_futbol )のツイートの動画内でも見られます。 

 

つまり「減速」の最中にはその加減次第で、急減速で止まることも、また異なる方向への移動も可能だということです。

 

前提となる「次」への意識

そして、その前提には、先ほどの例では「今」の連続で意思決定をしていたのに対して、「次」の想定で意思決定を下す、ということがあると考えられます。

 

これは簡単にいってしまえば「予測」なのですが、あえて予測としないのは、先ほどの「今」との対比をわかりやするためです。

(そう考えると「次」より「未来」の方がいいかもしれないですね)

 

「次」の前提があることで、減速の最中に異なる方向への移動や、相手が下がった場合にもう一歩前に出ることが可能になります。

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また、シチュエーション次第では以下のような状態も考えられます。

 

次を読み切れていれば、あらかじめそちらへの移動を想定した減速をすることが可能になるはずです。

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止まろうとすると「今」になる

「減速して近づく」

「次を前提にする」

なんていうのは、サッカーが上手い人は自然とやっていることではありますが、実際この認識のズレによって「止まりにいく」選手もいるなと感じています。

 

これはおそらくできる人にはわからない感覚です。

なぜなら無意識にできている当たり前のことだからです。

今回でいう止まれない人に対して、「なんでそんなことになるの?」と思う人もいるはずです。

 

しかし、「止まれ」と言われて「止まろうとする」と最初に示したようにある目的地を設定して、そこで止まろうするはずです。

 

そんな認識のズレが起きている可能性を考えていくと、改善される動きもあるんじゃないかなと思っています。

 

まとめ

戦術理解、方向転換に必要な技術、フィジカルの向上はもちろん重要です。

より向上を狙うために、そこから逃げてはいけないと思います.

それを踏まえた上で、そもそもの認識の違いが動きに影響を与えているのではないか、という点も考える必要があるかと思います。

 

同じ言葉をかけても、そもそもの認識が違うと、捉え方が変わってしまうので。