トレーニング負荷をコントロールすることは、
- トレーニングの質を高める
- 傷害予防
などの観点から必要です。
現在はGPSを使ったトレーニング負荷のコントロールやコンディショニングが発達してきていますし(ただこれは費用的な面で利用できるチームが限られる)、それ以外でも、血中乳酸濃度や心拍数、血中クレアチンキナーゼ等を利用する方法もあります。
個人的にはこういうのをもっと効果的に活用して行きたいなとは感じていますが、なかなかうまく行っていません。。。
今回はトレーニング負荷に関して、面白い論文を見つけたので、それについて考えを書いていきたいと思います。
トレーニング負荷とその把握
トレーニング負荷は、
- 外的負荷
- 内的負荷
に分けて考えることができます。
外的負荷と内的負荷に関しては過去に書きましたが、
- 外的負荷⇨行う運動の量や強度
- 内的負荷⇨実際に体にかかる負荷
ということができます。
参考過去記事
外的負荷のコントロールは、時間や走行距離、運動回数など比較的コントロールが容易ですが、実際にどれほどの負荷がかかっているか(内的負荷)を判定するのは難しいです。
内的負荷を把握する方法として、特別な設備や機器を利用することで、血中乳酸濃度や酸素摂取量、血中クレアチンキナーゼなどを利用することができますが、なかなかそう行ったことができるチームも多くはありません。
多くは、心拍数や主観的な感覚を利用することが多いです。
選手の主観的な疲労度や運動強度を判定する方法の一つに主観的運動強度(RPE:Rating of perceived exertion)があります。
トレーニング負荷と主観的運動強度(RPE)
主観的運動強度(RPE)は、その名の通り、主観的に感じる運動強度のことです。
代表例にBolg Scale(ボルグスケール)があり、これはRPEを6〜20の数値で表します。
参考
https://www.japan-sports.or.jp/Portals/0/data/ikusei/doc/AT/text%20kaitei/2017AT5_p68.pdf
これはあくまで主観的なものを数値で表すだけなので、正確性が高いとはいえないという欠点がありますが、簡易に運動強度の推定ができるという点では、使い勝手がいいと感じています。
コーチ、選手間での主観的運動強度の違い
ここから本題です。
こちらの論文では、コーチが想定していたトレーニング負荷と選手が感じたトレーニング負荷が異なっていた、という報告がされています。
Coaches' and players' perceptions of training dose: not a perfect match. - PubMed - NCBI
コーチが想定したトレーニングの強度と、選手が感じたものを比べると、選手は想定よりトレーニング強度を高く感じてた、という報告。
— 松本圭介 フィジカルコーチ (@DoKei56) 2018年11月3日
コーチが強度を高くしようと設定した時には、逆に選手は低めに感じてたというところも面白い。https://t.co/BySk0ESb3Q
研究の概要
対象
対象となったのは、オランダの最も高いレベルでプレーしているU-19のチーム所属の16人と、U-17のチーム所属の17人でした。
それぞれのチームには、UEFA プロライセンスを持ち、高いレベルのチームで長年指導経験のあるコーチが1人ずつ在籍しており、そのコーチがトレーニングの責任者でした。
方法
コーチは毎回のトレーニング前に、それぞれの選手に対してRIE:rating of intended exertion(「コーチが想定した運動強度」としておきます)を6〜20の数値で設定します。
同時にトレーニングの予定時間も設定します。
トレーニング後に選手は、RPE(主観的運度強度)を6〜20で示します。
また、実際にトレーニング時間がどれくらいだったかも記載します。
そして、RIE(想定した運動強度)が
- <13の時は easy(軽強度)
- 13〜14の時は intermediate(中強度)
- 16<の時は hard(高強度)
として、easy, intermediate, hardの時それぞれのコーチのRIEと選手のRPEを比較しました。
また、
- RIEとコーチが予定したトレーニング時間を掛け合わせたもの→コーチが設定したトレーニング負荷
- RPEと実際のトレーニング時間を掛け合わせたもの→選手にかかったトレーニング負荷
として、上記と同じようにコーチ、選手間で比較しました。
結果
簡単にまとめると
- RIE(コーチが想定した運動強度)がeasy(軽強度), intermediate(中強度)の時には、選手はコーチの想定よりも高いトレーニング強度・負荷を感んじた
- RIEがhardの場合には選手はコーチの想定より低くトレーニング強度・負荷を感じていた
となります。
また、実はこの研究では、チーム所属1年目と2年目の選手間でのRPEの差も比較していますが、1年目の選手の方がより高いトレーニング強度を感じていました。
個人的な考え
今回は内的負荷をRPEで示すことで判定するという手法を取っています。
コーチと選手での主観的強度が違う可能性に関してはより考えていく必要があると感じます。
例えば、コーチが経験的に設定したトレーニングだけでは、実際に適切なトレーニング負荷がかかっていない可能性があるということなので、この可能性を把握しているかどうかで、よりGPSや選手のコンディションの把握の重要性が高くなるはずです。
しかし、対象がU-17、U-19ということで選手のRPEと内的負荷の関係性がどれほど高いのか、というところが1つ問題となると思います。
RPEはその数値に10をかけることでおおよそ心拍数となるという報告はありますが(ここは後ほど調べ直そうと思います)、自身の負荷がどれくらいかを感じとって数値化するというには個人差が大きいでしょうし、若年アスリートであればその数値の正確性はさらに落ちるような気がします。
本文中の今後の課題でも触れられていますが、育成年代のアスリートのRPEと心拍数など内的負荷との関係性の検証が必要かなと思います。
また面白いと思ったのは、コーチが低・中強度を設定した時には選手は想定よりも高い強度を感じ、高強度を設定した時には想定よりも低い強度を感じた、という点です。
Hardの設定でのトレーニングでトレーニング強度を低く感じた理由はいくつか考えられると思いますが、例えば
- 選手が、高強度のトレーニングでは全力を出しきれない(心理的限界、トレーニング設定の問題など)
- そもそもトレーニング強度がそこまで高くない
- 実際は想定された強度、負荷がかかっているが数値としての表現にズレが生じている
などが考えられるかなと思います。
まとめ
事例報告的な論文なので、エビデンスレベルは低いですが、同様のことは至る所で起きていると思います。
内的負荷の把握は、トレーニングの質的な問題、傷害予防といった点で必要なのは間違いないです。
論文内でも触れられていますが、サッカーは個々人の負荷を把握するのが難しいスポーツです。
機器がないチームでは正確なデータを集めることは難しいですが、コーチの設定と実際にかかっている負荷が一致するわけではないという可能性を知っておくだけで、より選手のモニタリングの重要性を感じることができると思います。
こんな事例がありますよ、と言った知見としてやくだてていただければと思います。
参考
Coaches' and players' perceptions of training dose: not a perfect match. - PubMed - NCBI