「スクワットの深さ」はさまざまなところで話題に上がります.
フルがいいのかクォーターがいいのかというのはその代表例です.
基本的にスクワットはフル(パラレル)の深さまで下げて行うことが効果的だと言われています(もちろんケースバイケース).
では,だからと言って深く下げて行えばいいのかというとそういうわけでもなく,深く下げる時に注意しなければならない点があります.
その一つが,バットウィンク(Butt Wink)と呼ばれる代償動作です.
バットウィンクとは?
バットウィンク(Butt Wink)とは,スクワットのボトムポジションで腰椎が屈曲してしまう代償動作です.
簡単に言うと,下げ切った時に腰が曲がって骨盤が後傾してしまう動きのことです.
こういうやつ↓
重量物を持った状態でこの動作が起きると,腰部への負担が増加します.
これは慢性・急性腰痛等の原因となりえます.
ちょうど前に書いた記事のようなことが起きてしまうのです.
腰椎をニュートラルに維持したままスクワット(もちろんその他のトレーニングも)行うことが、安全性の面から,もちろんパフォーマンス向上の面からも重要だと言えます。
バットウィンクの原因
では,このバットウィンクはなぜ起きてしまうのでしょうか?
原因として考えられるのは大きく分けると
- 筋の柔軟性・関節可動性の問題
- 筋力の問題
- 身体の構造的な問題
の3つが考えられます.
筋の柔軟性・関節可動性の問題
バットウィンクが起きてしまう原因の一つとして,
筋の柔軟性不足やそれに伴う関節可動域の制限があげられます.
股関節
股関節屈曲の可動域が十分でないとき,スクワットをフルレンジで行おうとした際にバットウィンクが起きる可能性があります.
股関節の可動域制限がかかる原因としては,
大殿筋や,ハムストリングをはじめとする股関節伸展筋群の柔軟性の低下や
股関節のモビリティの低下が挙げられます.
改善方法としては,筋の柔軟性に対してはストレッチはもちろん,過去記事の中で紹介したルーマニアンデッドリフトなどのエクササイズを行うことで改善することが可能です.
また,トレーニング前のアップとしてPNFストレッチを導入することでも,筋出力を落とさずに筋柔軟性を獲得することができます.
股関節のモビリティ獲得エクササイズとしては,以下の動画で様々なものが紹介されています.
胸椎・肩甲帯
胸椎や肩甲帯の可動性が十分でない場合,姿勢を維持するために腰椎が代償運動を行う可能性があります.
この部位の可動性を向上させることでより正しく,スムーズにスクワットを行うことができるようになるかもしれません.
後述するオーバーヘッドスクワットは非常に効果的なエクササイズです.
また以下の動画は,オーバーヘッドスクワットやスナッチの改善を目的にしたエクササイズですが,胸椎・肩甲帯の可動性向上のエクササイズが紹介(足関節や股関節のドリルも紹介されています.)ので,ぜひ行ってみてください.
足関節
足関節に背屈制限が起きている場合,バランスをとるために上体の前傾角度を強めなければなりません.
それにより腰椎で代償動作が起きてしまう可能性があります.
足関節の背屈制限には様々な原因が考えられますが,それは以下の理学療法士の方々のブログで解説されていますのでそちらを参照してください.
足関節の可動域制限は?背屈と底屈の制限因子を本気で考えよう! | 理学療法士のカラダブログ
足関節に可動域制限がある場合,以下の動画のような足関節のモビリティエクササイズをウォームアップとして取り入れる方法や,スクワット時に踵にプレートを敷くという方法でも解決できます.
筋力の問題
筋や関節の可動域に問題がなかったとしても筋力不足のためにバットウィンクが起きることがあります.
特に,十分に腹圧を高めることができず体幹部の安定性が確保できない,また,自分にとって重すぎる重量を持ち上げようとすると,バットウィンクが起きる可能性があります.
後者の場合,自分に適した重量を選択できるようになればいいです.
前者の場合には,腹圧を高めるためにコアトレーニングを行うことや,後述するフロントスクワットやゴブレットスクワットをトレーニングに導入する,という方法が考えられます.
身体の構造的な問題
今回は詳しく書きませんが,大腿骨頸部の角度や大腿骨骨董の大きさや角度によっては,十分な股関節屈曲を出すことができず,結果的にバットウィンクへつながることもあるようです.
ここは勉強不足なので後ほど更新していけたらいいなと思います.
改善するためには
ここまでバットウィンクの原因を書いてきました.
関節可動域に関しては改善のためのドリルも紹介しましたが,ここからもう少しバットウィンクを改善するための案を書いていきます.
スタンス(脚の幅)を広くとる
股関節の屈曲が十分に出ない場合には(筋の問題であれ構造上の問題であれ)
スタンスを広げるという方法があります.
股関節の屈曲角度は120程度といわれていますが,実際にはそれは「股関節の屈曲+骨盤後傾」の角度です.
股関節だけの屈曲可動域は70度から80度程度です.
ではなぜスクワット等のエクササイズでこの範囲以上の可動域を確保できるのか,というと,股関節の屈曲に加え,外旋と外転の動き(ちょうど足を開いて膝を外側に向ける動き)を組み合わせているからです.
スクワットで股関節の屈曲が十分にでない場合には,よりスタンスを広げることで解決できるかもしれません.
フロントスクワットから導入する
スクワットといえば,多くの方がイメージするのはバーベルを肩に担いだバックスクワットでしょう.
しかしスクワットにはフロントスクワットという方法も存在します.
バックスクワットと比較したフロントスクワットの特徴として
- 上体をより直立した状態で行うこと
- 挙上重量が低下すること
- 体幹部の安定性が求められること
- 大腿四頭筋の動員が高まること
などがあげられます.
しゃがみこむ動作や腹圧を高め腰椎をニュートラルに維持する感覚を掴むためにもバックスクワットを始める前にフロントスクワットを行う、という方法が考えられます。
また似たようなエクササイズとしてゴブレットスクワットが存在し,こちらも上体をより直立状態に近づけ,体幹部を活性化させて行うスクワットです.
これはより簡単に行えるため,スクワットの導入として動きを習得することや,股関節周辺の柔軟性・可動性を獲得するのに効果的なエクササイズです.
まずはこのエクササイズから始めて,
【ゴブレットスクワット → フロントスクワット → バックスクワット】
と段階的にトレーニングを行うとよいかもしれません.
オーバーヘッドスクワットを導入する
オーバーヘッドスクワットは,股関節、足関節の可動性を獲得することはもちろん,胸椎・肩甲帯の可動性を向上させることができるエクササイズです.
バックスクワットに必要な関節可動域を獲得するのに非常に優れています.
始めはバーベルでなく,重量の軽い棒などから始め(FMSのように),動作が正確にできるようなったらバーベルに移行していくといいでしょう.
まとめ
今回,バットウィンクについて書きました.
これは自分1人で鏡を見ながら行なっているだけでは気付きにくいため,誰かに横から見てもらったり,横から映像を撮っておくといいでしょう.
フルスクワット,パラレルスクワットは筋力や柔軟性の向上により効果的ではありますが,だからと言ってただ深く下げればいいというわけではありません.
大きな可動域を出せないのであれば,
その原因に対してアプローチして改善する(筋力不足,可動域不足など)ことや
段階的にエクササイズを変化させていくこと(【ゴブレットスクワット→フロントスクワットやオーバーヘッドスクワット→バックスクワット】といったように)が必要です.