チームの練習が始まる前に、全体でウォーミングアップを行うチームは多いと思います。
典型的な日本のサッカーチームのウォーミングアップは、チーム全員でグランドを数周走ってから、ストレッチを行う、あるいはブラジル体操を行う、といった感じだと思われます(それ自体の良し悪しは今回は触れません)。
チームによっては、鳥かごやロンドと呼ばれるボール回しや、パス&コントロールのドリルなどウォーミングアップからボールを使う、という場合もあるかと思います。
僕がチームのウォーミングアップを担当させてもらうようになって今シーズンで3シーズン目です。
1シーズン目とは所属チームは変わりましたが、両チームとも監督の理解に恵まれ、毎練習の冒頭10分前後を担当しています。
たかが10分といえど、週に4回練習するとしたら週40分、月換算すれば160分ほどの時間になるわけで、ただ儀式的なウォーミングアップをするにはもったいない時間です。
ウォーミングアップの目的は複数あげられますが、最も大切なのは、その後のトレーニングでより効果的な練習が心身の状態をつくることだと考えています。
だからといって、準備という視点だけに目を向けていてはやはりもったいないと考えているので、日によってはダンベルやケトルベルを使ったり、鉄棒を使ったり、強度の高いプライオメトリクスや方向転換系のプログロムを行ったりなど、トレーニングとしての側面も混ぜていることが多いです。
そんなチームのウォーミングアップですが、 全体でまとまってエクササイズを行う前に必ず「フリーアップ」の時間を入れています。
フリーアップの時間
フリーアップは3分前後の時間で行います。
その3分間は、選手各々が自由にウォーミングアップを行います。
ボールの使用は禁じているわけではないですが、基本的に全員が軽いジョギングをしながら何らかのエクササイズを行っているという感じです。
フットワークや減速・加速の確認をしている選手もいます。
フリーの時間をとっているというと
「練習前に各自時間があるんだから、わざわざ練習が始まってからそんな時間をとる必要はないんじゃないの?」
と考える人もいるでしょう。
そもそも最初にフリーの時間をとっていたのは、僕の先輩のトレーナーの方で、引き継いだ時点でその流れのまま行っていただけでした。
しかしそれから2年以上たっても、チームが変わっても続けているのは、この3分に以下のようなねらいを込めているからです。
- 選手が自分の身体の異常に気付く
- トレーナーが選手の異常に気付く
- 全体のウォーミングアップでは行わない部分を個人で補完する
- 自主的にウォーミングアップを行えるように
- 準備に対する姿勢や考え方を見ることができる
選手が自分の身体の異常に気付くこと
これは経験がある人もいるかもしれませんが、練習が始まる前は何ともなかったのに、いざ始まった途端、「なんか変だぞ」と感じることがあります。
実際、
「練習始まる前は何ともなかったんですけど~」
「やれると思ったけど動いてみたら~」
といわれることはたまにあり、それにできるだけ早く気付くために、という意図があります。
もちろん、練習開始の前に個人個人でアップをすることは前提条件として伝えているので、その時点で気付くことが理想ですが、実際そこでは気付かなかった違和感に練習開始とともに気付くということもありますね。
スタッフが選手の異常に気付くこと
毎練習でフリーの時間をとっていれば、やることはルーティーン化されていることが多く、されていなかったとしても、その選手らしさが出るものです。
そんな中で明らかにおかしい動きをしていたり、いつもと様子が違ったり、表情が暗かったり、身体を気にするような素振りをしていれば、パッと目につきます。
そういう部分にこの時点で気付くことができれば、何らかの対応をすることや、早期にコミュニケーションをとることができます。
自分からは言ってこないけれど、おかしいと思って声をかけてみたら「実は~」となるケースも多々あるので、これは重視してる点です。
練習前に気付けるのが理想なんですけどね。
全体のウォーミングアップでは行わない部分を個人で補完する
このフリーアップの後に、全体で5~12分間でエクササイズを行います。
エクササイズ自体は特別なことをしているわけではありません。
限られた貴重な時間で、かつ大人数で行うため、全体の最大公約数をとるイメージでエクササイズを選択しています。
そのため、個人個人で本当は必要なことが、全体のアップでは行えていないかもしれません。
そこを最初の3分間で補完してもらいたい、というのがねらいの一つになっています。
正直言えば、フリーアップの時間で個人で必要なことを行い、全体のエクササイズで残りを補完する、という形、あるいはフリーアップだけですべてを補うという形が理想です。
しかし、30人弱の人数がいる中で、すべての選手がそうできるわけではないことや、後述する全体のエクササイズの目的の観点から、現状はこのような形で行っています。
自主的にウォーミングアップを行えるように
指示されたものをやるだけというのは避けたいと考えています。
3分という時間は短いようで長く、3分あれば2〜4種のエクササイズを十分に行えますし、ただジョギングをしていても、400m〜600mは走れます。
だいたいこんな感じの動きをすれば自分の身体の調子がわかる、こうやればここまでの状態に持っていけるというのを3分という限られた時間で見つけてくれればいいなと思っています。
それが、試合の日の自分のコンディションの指標になったり(試合のアップでも同じようにフリーアップを行う)、自分に必要なものを選択する指標になったりすれば、と考えています。
準備に対する姿勢や考え方がみられる
これは、なんだかんだで僕が一番見ている部分ともいえるのですが、先ほど書いたように、自由な時間を提供すると個々人の個性が強く出ます。
毎日見ていればそこからなんらかの意図を感じることができますし、ウォーミングアップに対する姿勢も感じ取ることができます。
ルーティーンを行う選手、全体のエクササイズでこれまで行ってきたなかで気に入ったエクササイズを継続している選手、こだわりが見える選手、逆に何も考えてなさそうな選手 etc...
これまでは何も考えてなさそうだった選手が、だんだんと変わっていく様子も確認できます。
逆もしかりですね。
あれ、最近サボりがちだな、みたいな。
ウォーミングアップをしっかりやっているからいい選手、というわけではないですが、チームの中で能力の高い選手ほどアップの中にも何らかのこだわりが表れているように感じます。
全体でのエクササイズの時間
フリーアップの後には全体で数種類のエクササイズを行います。
理想はフリーアップだけで各自ウォーミングアップが完了する、という形ですが、
- 傷害予防
- 最低限やっておいてほしいことを全体で行う
- エクササイズ紹介
- トレーニングとしての側面
という意図で5〜6分ほど、週の1番初めの練習では10〜12分ほど行っています。
ここはウォーミングアップをコントロールする人のこだわりが現れる部分だと思いますが、最初に書いたように、たかが数分といえど積み重なればそれなりの時間になることを忘れないようにしています。
ダンベルやケトルベルを使うこともありますし、鉄棒を利用することもあります。
エキセントリックの筋発揮もほぼ毎回行います。
強度の高いプライオメトリクスも入れますが、アップで怪我をするという最悪の事態は起こさないように、考えながらです。
ただなんとなく良さそうだから、という理由ではエクササイズを選択しないように、ただ目的をずらさない範囲で出来る限り多様なエクササイズを行ってもらう(日ごと、週ごと、月ごとなど少しずつエクササイズを変えていく)ように、というのは気をつけている部分です。
まとめ
自由な時間を急に与えられると困惑する人もいるようで、チームが変わったときに最初に行った時には、戸惑っているような選手や何をすればわからず、ただハムストリングのストレッチをしているだけの選手もいました。
1年経った今では全員とは言えないもののほとんどの選手がそれぞれ何かしら考えているように見られます。
3分という時間ですが、時間は2分だったり5分だったりすることもあるわけですが、実施していく中でちょうどいいと感じているのが3分だ、という理由で3分にしています。
3分あると意外と多くのことが出来るものです。
もしも「うちはアップでこんなことやってるよ」という人やチームががいたらぜひ教えていただきたいなと思っています。