#23 ハムストリングのトレーニングを股関節伸展で考えるか膝関節屈曲で考えるか②

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【昔のブログのリライト記事です】

 

今回は、前回に引き続きハムストリングに関してです。

 

傷害予防として筋肉に伸張性の負荷がかかるエクササイズを行うことはよく見られますが、では例えばノルディックハムストリングと、ルーマニアンデッドリフトではどう違うの?という疑問の1つの側面に触れていきます。

 

まだ読んでない方は前回記事からお読みください。

 

 

股関節か膝関節か

ハムストリングは、大腿二頭筋(長頭、短頭)、半膜様筋、半腱様筋の複数の筋肉をまとめたものです。(大内転筋もハムストリングと呼ばれたりするらしいですが、、、)

そして前回記事で書いたように、ハムストリングの主な働きとして、膝関節の屈曲と股関節の伸展があります。

 

ある研究で、膝関節屈曲時と股関節伸展時でのハムストリングの活動の違いについて検証しています(1)。

 

簡単にまとめると以下のような内容です。

 

  • 半腱様筋は紡錘筋(収縮速度が速い種類の筋)で、大腿二頭筋長頭と半膜様筋は羽状筋(横断面積が大きく強い力が出せる種類の筋)
  • ランニング中のハムストリングの肉離れは大腿二頭筋長頭で好発するとされている
  • 股関節屈曲におけるハムストリングの活動をレッグカールで、股関節伸展におけるハムストリングの活動をスティフレッグデッドリフト(膝を伸ばしたまま行うデッドリフト)を行うことで検証した
  • 膝関節屈曲の時には半膜様筋が活性化し、股関節伸展時には半腱様筋および大腿二頭筋長頭が活性化した

 

つまり、レッグカールのような膝関節屈曲によって動員されるハムストリングと、デッドリフトのような股関節伸展によって動員されるハムストリングは異なるという可能性を示しています。

(もちろん、レッグカールとスティッフレッグデッドリフトでは単純に比較できない点は多くありますが)

 

トレーニングエクササイズによるハムストリングの活動の違い

次に別の研究を踏まえて書いていきます。 

 

この研究は、

ハムストリングの活動を、 18.4±1.6歳のプロサッカー選手を対象に

 

  • レッグカール
  • ノルディックハムストリング
  • ロシアンベルトデッドリフト(ステッィフレッグデッドのようなもの)
  • ヒップエクステンション(ケーブルを使い仰向けで行う)

 

の4種のエクササイズを行い検証したものです(2)。

(それぞれエクササイズ動画は論文内に挿入されています)

 

それぞれのエクササイズで

 

・どの筋が活動するか

 (大腿二頭筋長頭・短頭、半腱様筋、半膜様筋)

・どの部位が活動するか

 (遠位、中心付近、近位)

 

を検討しています。

 

結果など詳細はをまとめると少し複雑になるので、読み取れることだけ簡単にまとめると

 

  • レッグカールでは、半腱様筋、大腿二頭筋短頭の活動が大きく、大腿二頭筋長頭においては遠位の活動のほうが高い
  • ノルディックハムストリングでは、半腱様筋、大腿二頭筋短頭の活動が大きく、大腿二頭筋長頭においては遠位の活動のほうが高い
  • ロシアンベルトデッドリフトでは、大腿二頭筋長頭、半膜様筋の相対的な(短頭および半腱様筋との)活動が、先の2つのエクササイズに比べ高く、近位部での活動が高い
  • ヒップエクステンションでは、大腿二頭筋長頭の相対的な活動が高く、特に近位部での活動が高い

 

 となります。

 

つまり、ひとくくりにハムストリングのトレーニングといっても、トレーニングエクササイズによって、活動する筋の種類、部位が異なるということです。

 

この研究だと、ハムストリングにかかる負荷がエクササイズによって異なることといった問題もありますが、この4つは現場で活用されることの多いエクササイズなため、このような違いが生まれることを把握しておくことは、リハビリ、トレーニングに応用できるのではないでしょうか。

 

2つをまとめると

これらのことから、単純にハムストリングのトレーニング(筋力向上、動作改善などどんな目的であれ)といっても、どの関節をメインに働かせるかによって動員される筋、筋の部位が変わる可能性が示唆されます。

 

例えばハムをトレーニング→レッグカールとばかりやっていたら、OKC運動だから実動作に~というだけでなく、筋活動自体も偏ったものになってしまいます。

ハムストリングの肉離れにおいて、筋力との関係性があるとする研究と、関係がないとする研究がありますが、その原因としても、もしかしたらこのように動作によって筋活動が異なるから、という可能性も考えられます。 

 

サッカー界では、ハムストリングの肉離れの予防として、ノルディックハムストリング(ロシアンハムストリング)やレッグカールが行われることが多いですが、それだけでは筋活動に偏りが出てきてしまう可能性があると考えられます。

 

まとめ

少し複雑な内容となってしまいました。

まとめると

  • 膝関節屈曲時と股関節伸展時では、ハムストリングが活動していることには間違いはないが動員される筋に違いがある。
  • トレーニングエクササイズの種類によって、活動するハムストリングの筋が異なる
  • トレーニングエクササイズによってハムストリングの筋のどこ(遠位か近位か)が活動するかが異なる
  • 大腿二頭筋長頭の活動(特に近位部)の活動を高めるには股関節伸展系のエクササイズが必要→(私見)肉離れ予防に効果的?

です。

 

また実際にはハムストリングだけが肉離れの原因でもパフォーマンス向上の要因であるわけではありません。

また個人個人で必要となる要素は異なります。

「やっぱりハムは股関節中心に鍛えなきゃダメなんだ!」

とならずに、今回の見解は、一つの考え方として使っていくのがいいのかなと思います。

 

前回記事

#22 ハムストリングのトレーニングを股関節伸展で考えるか膝関節屈曲で考えるか① - Matsu Training Room

 

 

参考文献

  1. 小野 高志, 福林 徹. ハムストリングスの課題依存的機能分化に関する研究2011.
  2. MRI-Based Regional Muscle Use during Hamstring Strengthening Exercises in Elite Soccer Players.