人の運動には何かしらの目的が伴うもので、目の前にある食べ物を手に取りたいから手を伸ばし、100m離れたあの人のもとに行きたいから走りだします。
この時、自分の意識は自分の身体には向いておらず、目の前の食べ物や、遠くにいるあの人に意識が向いています。
対して、ウェイトトレーニングでは大殿筋に意識を集中させますし、新しい動作を習得したいときにはこんな感じかな?と自分の身体感覚と向き合うことになります。
その時その時によって自分の意識を向ける場所を「内」(自分の身体)と「外」(身体の外部)とで使い分けています。
意識をどこに向ける?
身体に意識を向けることを内的焦点(internal focus)、外部に向けることを外的焦点(external focus)と表現します。
冒頭に書いたように、人の運動は、何かしらの目的があって行われます。
棚の上に手を伸ばすのは、腕を上げることが目的ではなく、上にある物をとるためであり、この時「肩関節の動きがこうなっていて、三角筋が収縮していて~」と意識することはありません。
意識は棚の上のものに向いていて、つまりこの運動は外的焦点で行われていることになります。
対して、新しい動作を習得しようとする時や筋力の向上を目指すようなトレーニングでは「自分の身体は今こうなっていて、このあたりに力を入れて~」といったように自分の身体に意識を向けることが多いでしょう。
これは内的焦点で行われる運動ということになります。
内に向ける?それとも外に向ける?
バスケットボールの経験者を対象とした、フリースローの正確性とその際の筋活動を検証した研究があります(2)。
この研究では、フリースロー時に
- a : 手首の動きを意識しながら行った場合
- b : ゴールを意識しながら行った場合
また、垂直跳びにおいても、外的焦点を用いた場合に大きな力を発揮することができ、結果として高い跳躍が可能となったとする報告もあります(3)。
これも、目的の地点へ達しようとすることによって、動作効率が良くなる可能性を示す一例といえます。
運動を行う際に、自分の身体に意識を向けすぎると、なんだか動きがぎこちなくなる、というのは誰でも経験があるのではないでしょうか。
自分の身体がどういうふうに動いているのかを感じ取ろうとすることはもちろん大切なことではありますが、それは動きのぎこちなさを引き起こす可能性があることを知っておく必要があります。
また、外に向けることで運動の効率が上がる可能性があることを頭に入れておけば、トレーニングの方法にも、それ以外にも多様性が生まれてくるはずです。
例えば、「腕を上げてください」、ではなく、「ここに触れてください」にしてみるとかですね。
まとめ
意識をどこに置くかというのは思っている以上に重要です。
もちろん自分の身体に目を向け感覚を向けることも重要ですが、それだけでなく、身体の外に焦点を当ててみたほうがうまくいくことが多いです。
そう考えてみると、緊張しているときや、怖気づいてしまったときなどは、自分の心臓の音が大きく聞こえたり、身体の震えを感じたりと、内的焦点が強くなってしまってる状態なんだ、ともとらえられます。
そうなるとやっぱりうまくいくはずのものもうまくいきませんね。
また、外的・内的とは少しずれるかもしれませんが、「意識の置き所と運動」として、度々話に上がる例として、重いものを押すときに押すところに意識を置くか、その先の押していく場所のに意識を置くか、というものがあります。
一つ先に意識を置いて押すだけで楽に押すことができてしまいます。
ぜひやってみてください。(そんなシチュエーションあまりないかもしれませんが笑)
参考文献
(1)小田 伸午,市橋 則明 編:ヒトの動き百話~スポーツの視点からリハビリテーションの視点まで~.市村出版,2011.
(2)Zachry T et al. increased movement accuracy and reduced EMG activity as the result of adopting an external focus of attention. Brain Res Bull, 67: 304-309, 2005.
(3)Wulf G., Dufek J. S., Lozano L., Pettigrew C. Increased jump height and reduced EMG activity with an external focus of attention. Hum Mov Sci, 29: 440–448, 2010.