#1 サッカー選手の「素早い反応」を認知能力から考えてみると?

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「素早い反応」は選手・指導者ともに求めるものです。

 

反射神経がいい、俊敏性がある、読みがいい etc... といった表現はよく耳にします。

そして、その能力を向上させるために、テニスボールが落ちる前に素早く拾うトレーニングや、音に反応して瞬時に動きだすトレーニングを行っている場面を目にします。

 

しかしそれでパフォーマンスが向上するでしょうか?

「反応」がどんな仕組みで、どんな要因が関わっているか考えることが必要ではないでしょうか?

 

反応

人が運動を行う際、多くの場合、刺激に対して「反応」します。

自分の意志で能動的に行っているつもりでも、例えば、遠くに見える友人に声をかける、目の前のコップを掴むなどの動作でさえも、視覚刺激をもとに反応し行動を決定しています。

そしてそれには常に入力出力が行われています。

 

入力と出力

ここでいう、入力および出力とは

  • 入力:外部あるいは内部からの刺激を受信
  • 出力:実際の運動として発揮

と考えてください。

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(入力に関して、外部あるいは内部からの刺激と表現しました。一般的に、刺激は常に外部から受け取るものだと考えがちです。

例えば、目の前にあるジュースに気付き、手に取って飲んだ場合、ジュースがあるという刺激を視覚情報として外部から受信したことになります。

しかし、頭がかゆいから頭を掻いた、という場合はどうでしょう?

その刺激は外部から発せられたものではなく、自分自身の感覚として内部から刺激を受信したことになります。)

 

 

さて、これをスポーツで考えてみると、高いパフォーマンスを発揮するためには、この入力と出力を「速く正確に」行うことが求められます。

 

「速く」と「正確に」は独立しているわけではなく、「速く正確」でなければなりません。

ただ早くとも、タイミングがずれていたり、そもそも出力される運動の質が低ければ効果的ではないですし、

逆に「正確」だとしても、出力に至るまでに時間がかかっていては、その間に相手に負けてしまいます。

つまりそれは、「適切なタイミング」でということになります。

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では、「速く正確に」、入力-出力を行う際に、入力から出力までの間にどんなことが起きているのでしょうか?

 

情報処理から運動の構築まで

入力された刺激は

  • 刺激を情報として処理
  • 反応(運動)の選択
  • 反応(運動)のプログラミング 

といった過程を踏んで、実際の運動として出力されます。

 

わかりやすい言葉で簡単にまとめると、刺激を入力してから出力されるまでの間に、

  1. 入力した刺激を意味のある情報として処理
  2. 次に行う運動を決定
  3. その運動をどれくらいの力の大きさで、どの方向に、どのタイミングでといったプログラムを構築
をしているのです。

 

1.刺激を情報として

刺激を情報として処理とはどういうことでしょう?

 

例えば、今、目の前にJリーガーが現れたとします。

FWです。伸長は180㎝としましょう。右利きです。ブラジル人で、髪は黒く、目は(以下略)

そのFWは、ドリブルが得意で、今、一対一の勝負をしなければなりません。

その時、視覚刺激として得られるものは、僕たちでも日本代表のCBでも同じです。

FWがドリブルをしている様子が映像として自分の中に入ってきます。

 

しかし、その視覚的な刺激から、どんな情報を得ることができるか(どんなボールを、どこに、どのタイミングで)は、全く違うものとなります。

 

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同じものを見たとしても、その人の経験や知識(どこを見るべきか、見たものから何を得るか、現在の状況、戦術的視点など様々な要素)によって得られる情報は異なります。

受け取った刺激への意味づけは、その人のそれまでの経験に大きく影響されるのです。

 

2.反応(運動)の決定

情報を処理した後、どのような反応をするか決定します。

 

FWが向かって左方向へドリブルしてくると情報処理した場合、「そのコースに体を入れる」という反応を決定します。

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他の例でいえば、キーパーが前に飛び出していると情報を処理したら「ループシュート」を選択をする、野球で外角高めにストレートが来ると判断したら「そのコースの打球を打つ」ことを選択するといった具合にです。

 

3.反応(運動)のプログラミング

そして決定した運動を 行うために、その運動をあらかじめプログラミングします。

どれくらいの力で、どの方向へ、どのタイミングへといったような運動の感覚を構築するのです。

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簡単にまとめると、運動の準備段階ともいえます。

 

そして最終的には、実際の運動として出力されます。

あなたはブラジル人FWからボールを奪取できました、といった具合にです。

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1~3、そし実際の運動を実行する、と考えてみると、

 

  • 1に問題があり、情報を素早く読み取ることに課題があるのか、
  • 2に問題があり、次の動きを決定することが苦手なのか、
  • 3に問題があり、効果的な動きがイメージできていないのか、
  • 実行することに問題があり、思うような動きができないのか。

 

課題はそれぞれで異なります。

 

もちろんこれは無意識化で行われることであって、いちいち考えている暇はありませんが、どこが問題なのかがはっきりすれば、じゃあどうやってその課題を解決するかという部分もわかりやすくなるります。 

 

素早い反応に必要なものは?

このように入力-出力、そしてその間には上記のような過程が存在しています。

そして熟練した運動を行う際には、無意識化で、かつ速く正確に行われます

 

スポーツ(相手が目の前にいるスポーツ)では、常に相手や味方等々の存在を知覚するする必要があります。

例えば、「アジリティ」と呼ばれる能力は単に足が速い、方向転換が得意といった身体的な能力だけでなく、知覚・意思決定の能力も重要であることは知られています(Young et al. 2002.)。

 

また、メジャーリーガーが女子のソフトボール選手のピッチャーと対決した時に、野球に特異的な予測能力が発揮できずに打つことができなかった、という話があるように、ある現象に素早く反応し最適な運動を発揮するためには、後天的かつ特異的な認知能力が必要となると考えられます。

 

となると、反応が遅い、速いといった能力は、身体能力が高いからか、入力-出力の過程が素早く正確だからか、さらにはその過程の中でも情報り処理が優れているからなのか、、、と様々な可能性を考えることができるのではないでしょうか?

そしてそれは、パフォーマンス向上を考えた時のトレーニング計画に影響を与えます。

 

まとめ

  • 反応の過程には入力-出力がある。 
  •  入力から出力の間に、刺激を情報として処理し、運動を決定し、その運動を行う準備をする。
  • 素早い反応に必要なものは高い身体能力だけではない。 

 

競技の中で素早い動き、反応をする場合、からならずそこには認知要素や意思決定の要素が含まれます。

それは後天的に身に着けた経験や知識が背景となるものです。

 

身体能力は向上した、スピードも上がった、でも試合中に素早く動けない。

このような選手がいた場合それは、身体能力とは別のところに課題があると考えられるでしょう。

 

 

参考

1. David Epstein (福 典之・監修, 川又 政治・訳)  : 「スポーツ遺伝子は勝者を決めるか? アスリートの科学」 早川書房, 2014.

2. Richard.A.Schmidt(調枝 孝治・訳):「運動学習とパフォーマンス」大修館書店,1994.

3. Warren Young, R, James. and I, Montgomery. Is muscle power related to running speed with change of direction? J SPORTS MED PHYS FITNESS. , 42:282-8, 2002.